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ケニアのクラブで言語多様性を感じる

今回私が訪れたのは、ケニアの小さな村。私はキクユ族のトリリンガルファミリーとしばらく一緒に過ごすことになった。

 世界の言語の情報を網羅的に集成したデータベース、Ethnologueによれば、ケニアには61の言語が存在すると言われている。また、ケニア人のほとんどは、英語、スワヒリ語と最低1つの民族語を話すことができる。アフリカ人が多種多様な言語を上手に操っているのは、今まで訪れたアフリカ諸国からも強く感じ取れたが、ケニア人もなかなかのコードスイッチング力であった。


 ケニアで私は人生初めてのクラブに行った。ケニアではクラブは18歳からということで、せっかくだから村の超ローカルなクラブに連れて行ってもらった。入ってみると、そこは私がイメージするクラブというより、ご近所さんのたまり場というような感じだった。キクユ族のダンスをみん



な楽しそうに踊り、ボードゲームを楽しみ、とにかくお酒を飲む。最初は、雰囲気に飲まれなんとなくぼーっと座っていたが、しばらく見ていると酔っ払いケニア人たちの言語切り替え力の高さに驚いた。思わず私は眉間にしわを寄せ、じっと観察し始めていた。先に述べたように、彼らの多くは、英語、スワヒリ語、さらに民族語であるキクユ語の3言語を話すことができる。基本的には、キクユ族同士でキクユ語で会話しているのだが、一人でもキクユ語を話さない人が現れるとすぐさまスワヒリ語に切り替える。そして外国人である私も混ぜて話すときは、自然とみんな英語で話しかけてくれるのだ。何がすごいって、みんな真っ直ぐ歩けないくらいひどい酔い方をしているのに、言語の切り替えだけは完璧にできていることだ。どの言語をいつ使うのか、それぞれの言語の使用領域が彼らの頭の中で厳然と切り分けられているからこそ、ここまで素早く切り替えることができるのではないかと思う。


 彼らの頭の中ではどのように言語の役割分担が行われているのだろうか。ケニア(また多くのアフリカ諸国)の言語状況を理解するためには、ピラミッドをイメージするとわかりやすい。一番上には公用語の英語があり、教育、政治など公的な場で使われる。その下には、英語より公的な場での使用頻度が減るが、公用語であり民族語がたくさん存在するケニアにおける共通語的な役割を担っているスワヒリ語がある。さらにその下にたくさんの民族言語が存在している。ケニア人は家族や村の友人とは民族語を、街に出て買い物をするときはスワヒリ語を、学校や病院では英語、のように頭の中に使用領域がしっかりインプットされているからこそ、ここまで器用に言語のスイッチができるのである。



 

また、家族と家でくつろぎながら、テレビを見ていたらこんな発見があった。毎回時間が変わる度にニュースで話されている言語が変わっているのだ。17時のニュースはスワヒリ語、19時からは英語、21時からはキクユ語で放送される。民族語であるキクユ語のニュースがあることにも驚いた。それに加え、どのニュース番組でも、必ずケニア手話が表示されている。新憲法によって、ケニア手話は国会で用いられる言語として認められてから、ケニアではニュース番組で手話を表示することが義務付けられているらしい。公用語以外の民族語やケニア手話の表示については、日本でも方言放送や日本手話の表示をするなど、見習うことが十分にできるなと感じた。ともかく、今回のケニア滞在で本当に色々な場面でケニアの言語の多様さとケニア人の器用さに驚かされたのであった。


                ケニアのテレビ番組


 
 
 

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